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ヒトの全遺伝情報を得るには、一番から212番までの(1本ずつの)常染色体にXとYの性染色体を加えたセットが必要となる。
これが、ヒトの「ゲノム」である。 前述のように実際の細胞では、染色体は同じものが2本ずつ対になっているのだから、遺伝子セットとしては2組あるともいえる。

DNA中の塩基の数でいえば、ゲノムに含まれる塩基の数は30億個なので、実際の細胞中にはおよそ2倍の60億個ある計算だ。 しかし遺伝的な要素としては、ゲノムのなかに一通りの情報が含まれていると考えられるわけである。
ちなみに、1個の細胞中のDNAは一列に並べると、ヒトの身長と同じ1メートル数十センチから2メートルもの長さになる物質である。 それでは、このゲノムを構成しているDNAの塩基配列を読み出して翻訳していけば、さまざまな遺伝子の並びや役割が次々とわかるのだろうか。
まず最初の難問が、どんな種類の遺伝子が、どのような姿で、どこにあるか、ほとんどわからない状態で歩き出さねばならないことだ。 たとえば私たちが初対面の人を訪ねるとき、少なくとも、どのあたりの地域に住んでいる、こんな特徴をもった人で、名前は・・・といった程度の情報がないと行き着くことができないだろう。
ところがヒトゲノム計画では、どんな人(遺伝子)がどのあたりに住んでいるか、まず見当をつけるための作業からはじめねばならない。 しかも困ったことに、ヒトのDNAすべてが遺伝子の集まりというわけではない。
それどころか、遺伝情報を担っている部分は全体のわずか5パーセント程度で、残りの95パーセントは遺伝情報に関係のない無意味な部分で、ジャンク(がらくた)DNAとまで呼ばれているイントロン部分の塩基配列である。 前述のロゼッタ・ストーンの例に則していえば、文字は書かれているのだが文章としては読まれない部分があちこちにあるという、情報文としてはちょっと奇妙な構造となっている。
これはおそらく、ヒトになるずっと前には遺伝子として使われていたが、進化の過程でジャンク化してしまったDNA部分だろう、と考えられている。 このように、DNAの塩基配列がそのまま遺伝子の並びを示しているわけではない。
しかも、1つの遺伝子がDNAのなかに連続しているとは限らない。 数千から1万数千個の塩基によって1つの遺伝子が構成されている場合が多いのだが、途中にイントロンとよばれるジャンクDNAが何か所か挟まっている状態がほとんどだ。

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